2009年06月17日

葛飾北斎の心意気

突然ですが、芸術家ってすてきだなあと思います。
いつも一緒にワークショップを企画している、
尊敬する芸術家の先輩が、すごく素敵な話を教えて下さいました。

葛飾北斎といえば、富士山を描いた「富嶽三十六景」が有名だ。
江戸時代後期の浮世絵師である。

ある時、江戸へやってきたオランダ人の商館長から、
「日本人の一生を表した絵を描いてもらいたい」と依頼された。
出産から育児、家庭教育、結婚、年老いて死去し葬式を出すまでの日本の風俗、風習を、男女別に二巻に分けて描いてほしいという注文だった。
謝礼は二巻セットで百五十両という約束である。
商館長に随行してきた医師が、そばで聞いていて、自分も欲しくなり同じように依頼した。

北斎は、幾日もかけ、丹精込めて描き上げた。
さっそく、商館長が泊まっている旅館へ届けると、彼は、絵の出来栄えを見て大変喜び、約束どおり百五十両払ってくれた。
次に、医師の所へ持っていくと、
「私は、商館長と違って収入が少ないので、同じ謝礼はできない。半額に負けてもらいたい」
と言いだすではないか。
北斎の顔がこわばった。

「それならば、なぜ、最初から言わないのか。できあがってから半額にしろと言われても承知できない。
同じ絵を、あなたに半額で渡すと、商館長からは余分にせしめたことになる。そんなことをしたら、日本人の信用問題だ」と言い切った。

医師は、平然と、
「それならば男女二巻のうち、男のほうだけでよいから半額の七十五両で売ってもらいたい」
と迫ってくる。

北斎は、頑として応じない。

「約束が違う」

と言って、一巻も渡さずに家へ持ち帰ってしまった。

これを聞いて、妻は、あきれてしまった。
「たとえ半額でもいいじゃないですか。家計が厳しいです。
そのお金が、入るかどうかで、相当違いますよ。
この絵は、今、オランダ人に売っておかないと、誰も買ってくれませんよ……」

妻の愚痴にも、北斎は動じない。

「向こうが約束を破ったんだぞ。確かに『はい、はい』と言って、半額でもお金をもらってくれば、家計は助かるかもしれない。
だが、日本人は相手の顔色を見て簡単に節を曲げる国民だと思われるに違いない。
自分一人の行為が、日本人の信用を傷つけることになってしまう。そんなこと、できるもんか」

後にこの話が、商館長の耳に入った。
彼は、北斎の心意気に感心して、残りの一セットも百五十両で買い求め、オランダへ持ち帰ったという。

やがて北斎の絵は、ヨーロッパで注目されるようになり、毎年、外国から依頼が来るようになった。

ゴッホなどの印象派の画家たちにも大きな影響を与えているという。


まさに、日本人の誇りですね。



Posted by 冒険家 at 18:57

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